関節疾患に対する外科的治療の進歩

整形外科部長
藤田 裕

 現在使われている人工関節の原型は、1960年にイギリス、マンチェスター近郊のウイーガンでチャーンレイ先生が金属骨頭とポリエティレンカップを組み合わせ、アクリル樹脂である骨セメントで固定したのが始まりです。以後、現在に至るまで世界中で様々な改良が続けられてきました。本邦では我々の先輩である京大の長井 淳先生と信州大学の寺山和雄名誉教授がいち早くウイーガンに留学し、持ち帰ったのが始まりです。以後、全国的に普及し今では一般的な手術になってきました。しかし、手術方法については千差万別で技術的に問題のある症例も散見されます。人工関節は行なうは容易く、上手く行うのは難しい手術と言えます。私は10年前からより耐久性に優れ、安全な人工関節の研究を行ってきました。人工関節は、工学と医学の結晶であり、最高の治療を行うためには、最良の材質を持つ人工物を様々な形や性質を持ち、常に変化している骨に適切に固定する技術が必要です。人工関節の手術はある程度経験を積んだ整形外科医なら誰にでもできるほど普及した手術ですが、手術方法によりたとえ術直後に差がなくても20年後、30年後に大きな差となってくるわけです。今回は当院での人工関節手術について説明させていただきます。

当院では関西最大規模の無塵の手術室(クリーンルーム)、個室も選択可能な新築された病室とリハビリテーション室が完備され、検査、手術に関して最新の機器が設備されています。人工関節置換術の手術件数は週に1例以上あり、最近さらに増加してきています。 当院では関節の外科、人工関節に関して国内外で高度の専門教育を受けた経験豊富な専門医による治療が行われています。世界最高水準の手術、献身的な看護、そして効率的なリハビリテーションにより、ほとんどの人が3週間で退院できます。人工関節を長持ちさせるために、材料、固定方法を工夫しています。磨り減りを最小にするために、セラミックスやガンマ線照射したポリエティレンを使い、長期間骨との間で弛まないようにアパタイトを併用した固定をしています。(写真1)また、自己血輸血と術中、術後回収血輸血によりほとんどの人で他人の血液を輸血する必要がなくなりました。これらは私が師事した京都大学整形外科股関節班の先輩方や国立大阪南病院(現在は富永病院)の大西 啓靖先生らの長年にわたる研究の成果です。

写真1 手術後レントゲン写真
●人工関節ってどんな手術ですか?
関節のかみ合っている部分(互いに擦れあって動いている部分)を人工の物に代えてあげることで、傷んだ関節を再建し再び痛みなく歩けるようにする手術です。

●どんな病気に関節の手術、特に人工関節の手術が必要になるのですか?
下記の病気または外傷が対象 になります。これらのうち関節の壊れ方の程度が強く、自分の骨や関節を使っての手術では治すことが難しい状態になっていて、痛みが強く日常生活に支障をきたしている人に行ないます。

A) 人工股関節
 1) 変形性股関節症:先天性股関節脱臼、小児期のペルテス氏病、化膿性関節炎、関節唇断裂、股関節の外傷が過去にあって起こってくることが多い病気です。

 2) 関節リウマチ:全身の関節が侵されていることがありますが、特に股関節、膝関節、足関節、肘関節、肩関節、指関節等に起こってきます。

 3) 大腿骨頭壊死症:多量のアルコールを長期間飲用した人、副腎皮質ホルモンを長期間多量に服用した人、大腿骨頚部骨折の治療後、外傷による股関節の脱臼骨折後等に起こってきます。

B) 人工膝関節
 1) 変形性膝関節症:高齢者、長い間農作業、山林での作業を続けてきた人、スポーツ、交通事故等の外傷後に起こってきます。
 2) 関節リウマチ

C) 人工肩関節、人工肘関節、人工足関節
 関節リウマチ、変形性関節症、外傷後等の関節症等。

●どこまで悪くなると人工関節の手術が必要なのですか?
一般的に云って、人工関節の手術以外の治療や手術を行っても効果がなかった、または効果が期待できない場合に人工関節の手術が必要になります。

手術を行わなくても体重をかけないで関節を動かすことにより筋肉の力を強くし、関節軟骨を回復させる(水中歩行、自転車こぎ、体操等)ことにより関節痛の軽減を計ることが出来る場合があります。 人工関節以外の手術として、内視鏡視下手術(半月板切除術や滑膜切除術)、骨切り術などの関節形成術があります。

●人工関節の効果は?
ほとんどの患者さんで、痛みは完全になくなり、関節の動きがよくなり、歩きやすくなります。車いすの生活をしていた人やほとんど寝たきりであった人でも早期に社会復帰ができ、また海外旅行もできるようになります。

●私たちの病院で使っている人工関節は?
人工関節が長持ちするために最も重要なのは、関節の摩耗が極めて少ないことと、人工関節が骨と長期間ちょうど適した強さで結合し続けることです。 摩耗に関してはセラミックスやポリエティレンにガンマ線を照射したものを使用していますので、摩耗は著しく減少し半永久的に耐用し得るでしょう。 骨との結合に関しては、水酸化アパタイト(骨と化学的に結合する骨の成分)を手術中に使用するため、骨と人工関節がちょうど適した強さで半永久的に結合します。

●私達の病院での手術後の経過は?

翌日 ベッド上で座る
2日目 車椅子に乗って移動する。
1週間 歩行をはじめる
3〜4週間 1本杖で歩行し、退院する
●可能性のある合併症は?
脱臼 脱臼を予防するためにはコンポーネントの設置方法と軟部組織の適度なバランスを術中に得ることがまず大切です。しかし、人工関節は特に術直後においては関節包に守られていないため、極度に曲げすぎたり、捻りすぎると脱臼することがあります。看護師や理学療法士の指示に従って、安全にリハビリしましょう。また、手術前から股関節周囲の筋力トレーニングを行うことも重要です。
感染 骨の中はもともと無菌状態なので、口の中や胃腸、膀胱の中などに比べて細菌に弱い、という性質があります。そこに大きな人工物が入るので、一旦感染すると大変治りにくくなります。そのため、予防が何より大事です。手術はクリーンルームで術者は全員宇宙服と呼ばれる全身を覆い、吐いた息が術野に絶対に行かないようにしています。(写真2)また、膀胱炎、虫歯、歯槽膿漏、大腸炎、などからだの他の場所から血液を介して菌が関節にひっかかると化膿することになります。予防としては常に健康管理を行い、虫歯の治療をする時には、前夜より抗生物質を使っておく方が安全です。
最後に
今後も当院を訪れてくれる患者さんの期待に応えていけるよう真摯に診療に望んでいきます。